大使館や外国人のお客様も大勢いらっしゃいますが、彼らは冒険的なサンプルを試すので、私自身がそれに鍛えられた部分もあります。「それを持ってくるとは、やるねぇ」と思わされ、思わせる、緊張感を持った居合抜きのような掛け合いも楽しいものです。ですから、誰も使えないだろうと思われる額も、イタリアやスペインなどからあえて買い付けてきます。ヨーロッパのバイヤーたちは、見本市が終わると、まっさきに私の元に持ってきてくれます。質感がとても好きなので、思わず匂いを嗅いだりもしますし、身体感覚で選び、いいとか悪いとか率直に言い合うので、数年の間に変わり種たちが何百種と揃いました。
――多種多様なモールディング(額縁の棹)がありますね。
「銀鏡反応」という化学変化で額の表面に純銀を析出させたもの、布やレザーのような質感をもったもの、陶器のような「滑り」のあるもの、細密な彫刻に下地を施し箔で仕上げたものなど、他店にはないようなものばかりです。高度な加工を施した形、「一口に赤といってもこの赤は他にない」など、眺めるだけでも楽しいと思いますよ。
額縁の可能性を広げるヒントは異業種にある
――どこに掛けるか、空間との相性も考慮に入れますか?
掛ける環境に縛られるよりも、その作品にふさわしくぴったりとはまれば、どこにでも展示可能だと思います。作品を将来入れ替えるかもしれませんし……。今や額縁は作品を入れるだけでなく、その用途も多様性を増しているんですよ。ある宝飾店では、小さな額を指輪の台座として使っていますし、チャペルの壁をモールディングで埋め尽くして装飾した例もあります。デザイナーズマンションのエントランスで窓越しに見える敷地内の景色を借景としてフレーミングするなど、空間全体での使われ方も広がっているんです。額縁を使って表現する、装飾すると考えると可能性がたくさんあるんです。アートの遺伝子をもった額縁を生活に取り入れることによってライフスタイルを豊かにする。額装それ自体だけでなく、美のある生活文化を提案する意識で仕事をしています。
――この仕事に就きたい人にアドバイスをお願いします。
実際に活動している、フロントランナーのような人たちと接する機会をつくること。僕の場合は、デザインにおいても用途においても想像を超える多様性を示してくれたのは、商業施設関係のデザイナーなど異業種の方や、鋭い感覚を持った個人の方々でした。相談を求めながら持ち込まれた新しいアイデアに触発されたり啓蒙されたり、一緒に考えながら、額縁の埋もれていた可能性を社会に送り出してきました。アーティストやギャラリーだけとお付き合いしていたら、平面の要素でしか額縁をとらえなかったかもしれないですね。地元の恵比寿はもちろん、出張先の地方のデパートや美容院、レストランでジンプラの額縁を見かけるとうれしいものですよ。
額縁屋が本来なら自分たちで考えて提案すべきだったのですが、お客様の発想やお力をいただいて額装の第二局面を迎えたと思います。お客様が額装について考える過程や時間は、仕上がりに対する期待感も含めて作品に対する思い入れの塊のようなもの。アーティストの制作と似た要素もあるのではないでしょうか。額縁を通じて広い世界に接することもできると思います。
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